ご挨拶

スキルズラボについて考える

三重大学スキルズラボ施設長 湏藤 啓広

三重大学スキルズラボ施設長 湏藤 啓広

ミュレーターを用いるということは疑似体験(経験)をすることで、実際の患者さんにスムーズに手技が施行できる手助けをする役割があります。なお、体験と経験は、英語ではいずれもexperienceと訳されますが、日本語では両者の意味は全く違います。体験とは「一日体験入学」などからわかるように「一つの出来事に巡り合った」というもので、体験を通じて何かを身につけるというものではありません。経験とは、いくつもの体験を通じて何かを身につけることです。なお、いくら体験を積んでも、それを活かしていけない場合は経験したとはいえません。従って、シミュレーターを用いた疑似体験の段階で、実地臨床に応用するのは不十分であり、むしろ危険といえます。体験を何度も繰り返すことにより、その手技が身について疑似経験の段階になってから初めて実地臨床に応用すべきです。

施設写真 れでは本当の意味で技術(匠の技)を自分のものにするには、どれくらいの期間が必要なのでしょうか。宮本武蔵は「五輪書」の中で「千日の稽古を鍛とし、万日の稽古を錬とす。(水の巻)」と述べております。すなわち、匠の技を修得するには日々の「鍛練」が重要で、まず技を「鍛える」ためには千日(約3年)が必要であり、「練る」ことで技を極めるには万日(約30年)が必要であるということです。ここでいう鍛練とは、一般の英語辞書ではphysical trainingと訳されますが、これとは全く異なります。英語版の五輪書には、この鍛練のことを「Teach your body strategy:自分の身体に戦略・方策を刷り込む」と訳しています。戦略・方策とは「知恵に裏付けられた技術・方策」のことだと考えられますので、鍛練とは「確かな知識に基づいた技術を鍛えて練ること」と理解すべきです。なお、武蔵は「千日の稽古、万日の稽古」と「稽古」という言葉を用いていますが、「稽古」という本来の意味は、「稽」は「考える」という意味で、漢語「稽古」の原義は「古(いにしえ)を考える」、すなわち「昔のことを調べ、今なすべきことは何かを正しく知る」ということといわれます。従って、ある手技を稽古するということは、常にその手技の持つ「意味・意義」を考えながら行うことであるといえます。

院のスキルズラボには様々な臨床現場を想定した器具(シミュレーター)が揃っています。学生(医学科および看護科)から研修医のみならず、すでに経験豊富な医師、看護師も利用可能であり、それぞれの立場で「稽古」をすることで「Teach your body strategy」を実践してほしいと思います。

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